災害避難拠点としての学校の役割

災害避難拠点としての学校の役割と<br/>学校統廃合の弊害

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災害避難拠点としての学校の重要な役割

(2013年5月29日)

学校は、教育の場というだけでなく、地域の中で多様な機能を果たします。特にいま、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震などの発生確率が高まっているもとで、災害時の避難拠点としての学校の役割がとても重要になっています。

 

学校統廃合によって災害時に安心して避難できる拠点がなくなる

公立小中学校は、そのほとんどが、災害避難拠点に指定されています。ですから、

  • 統廃合した場合に、地域の災害避難拠点がなくなる地域が出てくる
  • 統合された学校が災害避難拠点として機能するのか

という視点からも、学校統廃合を慎重に検討する必要があります。

 

災害が発生して学校へ避難する場合を考えてみましょう。「統合せず学校が地域に存在するケース」と「統合されて学校規模が大きくなっているケース」で分けて考えてみます。

 

統合せず学校が地域に存在する場合

集落ごとに学校がある場合には、避難距離もさほと遠くなく、その地域の住民が避難してきます。多くても数百人規模でしょう。

 

子どもが学校へ通っている世帯なら、お互い気心が知れているものです。現在子どもが学校に通っていないとしても、その地域に住んでいる人は、その学校の卒業生だったり、家族の誰かが、その学校と何らかのつながりのある場合がほとんどです。あるいは、ご近所であるとか、自治会が同じといったように、日ごろから付き合いのある場合が多いものです。そういう点では、つらい避難生活の中でも、少しは精神的負担が和らぐものです。

 

このように、避難する距離もそれほど遠くなく、避難してくる住民も日常的に付き合いのある人たちがほとんどです。

 

統合されて学校規模が大きくなっている場合

それに対し、統合されて、例えば町に1校だけになっているような場合を考えてみましょう。

 

まず、避難しようにも遠すぎて避難できない世帯がほとんどです。そういう世帯は、どこか他の避難所へ行くか、独自に避難場所を探すしかありません。しかし避難所として指定されているところでなければ、行政からの物資の配給は行われません。

 

また、学校に避難できたとしても、避難者は千人規模になる場合もあります。トイレは不足し、常に行列ができる状態です。さらに、配給でも不自由を強いられます。そういうことを嫌って、そもそも大規模な避難所には避難しないという方もいます。

 

このように、避難したくても避難できない住民が多数発生します。避難してくる人たちは、よく知らない人たちがほとんどです。避難しても不自由を強いられることが多くなります。

 

通学距離は災害時の避難距離でもある

学校統廃合の議論のとき、通学距離のことが議論されます。法律で「適正な学校規模の条件」が、小学校が4q以内、中学校が6q以内とされていますから、通常それが基準とされます。

 

それぞれの地域によって事情は違いますから、通学距離があまりにも遠くなって、送迎バスの運行や保護者の送り迎えが必要となるケースも出てきます。通学は、子どもたちにとっては毎日のことですから、子どもたちの通学に負担にならないようにするための議論が第一です。

 

しかし、この議論は、災害が発生して避難する場合の議論にもつながるものです。災害時に住民が安全に避難できる距離か、といった観点からの議論も必要ではないでしょうか。

 

学校の給食施設を利用した炊き出しが可能

もう1つ、災害避難拠点としての学校の機能で大切なことがあります。給食を自校方式にしている学校には、給食施設が備わっています。同時に、地域の人たちが給食調理員として勤務しています。

 

これは、避難してきた住民たちで給食施設を利用した炊き出しが、すぐにでも行えるということなのです。これは他の避難施設と決定的に異なる点です。それだけ、避難施設としての機能に優れているということなのです。

 

2013年5月に発表された中央防災会議の「南海トラフ巨大地震対策について」(最終報告)では、被災の範囲が非常に広範囲に及び、発災直後は行政からの支援の手が行き届かないことが想定されることから、「まず地域で自活するという備えが必要」とされました。

 

学校給食も効率性が優先され、センター方式を採用している学校が少なくありません。子どもたちに、地元で採れる安全な食材を使い、美味しい給食を提供することはもちろん、災害発生時のことも考慮し、給食の自校方式の意義を改めて考え直す必要があるでしょう。

 

阪神淡路大震災のとき、給食のセンター一括方式を推進した神戸市では、学校給食室を使った炊き出しが十分できなかったことが指摘されています。

 

学校統廃合で学区が広がれば地域の避難所として機能しない

2004年に発生した新潟県中越地震で、新潟大学が様々な調査を行いました。

 

その中に、「学校の避難所としての機能について」という調査報告があります。新潟大教育人間科学部(当時)の世取山洋介(よとりやまようすけ)准教授が調査したものです。

 

この「調査報告」を見れば、学校統廃合で学校を大規模化することが、災害発生時にいかに住民の避難を困難にさせるかが、よく分かります。

 

当時、「車中泊」をして、エコノミー症候群(エコノミークラス症候群)で命を失う人が出ましたが、その背景には、避難所へ避難したくてもできなかったという背景があったことも解明されています。

 

世取山洋介氏は、この調査結果から「住民が安心して行こうと思え、基礎的なニーズも充足されやすい一時避難所は、近くにあり、かつ、人数が300人前後」と指摘しています。

 

学校統廃合問題は、「まちづくり」と合わせて考えること大事だということ、また学校を「住民の生命を守る砦」として守り育てることの重要性を改めて考えさせられる「調査報告」です。学校統廃合を考える際には、この「調査報告」を教訓とする必要があるでしょう。

 

「学校の避難所としての機能について」(第1次調査報告)はこちら
 (新潟大学のページへ)