学校統合政策を方針転換した時代の国会審議

学校統廃合、適正規模に関する国会での議論/1973年通達以降

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学校統合政策を方針転換した以降の政府答弁の特徴

(2013年2月12日)

「学校の適正規模」や「学校の統合方針」などについての国の考え方の特徴を、国会での政府答弁をもとにご紹介します。

 

ここでは、1973年(昭和48年)通達(「Uターン通達」)以降をまとめています。

 

1973年(昭和48年)9月27日、文部省(当時)が通達 「公立小・中学校の統合について」を出します。学校統合政策を方針転換するもので、「Uターン通達」と呼ばれます。

 

それ以前は、「12〜18学級」を「適正規模」として学校統合を積極的に進めてきましたが、この通達によって、無理な学校統合を禁止し、住民合意、小規模校の尊重、学校の地域的意義の考慮などを重視するものに方針転換されます。

 

そういった国の学校統合に対する方針転換が、国会審議での文部省・文部科学省の答弁にどう現れているか見てみましょう。

 

無理な統合をしないよう指導

僻地や過疎地の学校では、補助金を目当てに「適正規模」を重視して無理な統合をするという実態が各地に出てきました。その結果、子どもの通学距離が非常に遠くなって、通学に困難を来たす事態も多く生じました。また、地域住民の同意を得られず、「紛争」にまで発展するということが各地で起きました。

 

そうしたことから「無理な統合をしないように、統合するにしても地域や学校のおかれている実情を十分考慮して計画するように指導している」と国会でも説明しています。

 

過疎化の進んでいる地域での学校統合の考え方を聞かれて、文部省は次のような答弁をしています。

 

1980年(昭和55年)3月5日 衆院・予算委員会第二分科会 諸澤正道・文部省初等中等教育局長

昭和48年に指導通達を出しましたときには、余り学級規模というものを重視して無理な統合をした結果、地域住民の同意を得られなかったりあるいは子供の通学距離が非常に遠くなったりという事態が起こらないようにしなさいという指導でまいったわけでございまして、要するに現在はそういうことを踏まえまして、統合するに際しましてもそれぞれの学校の置かれている実情というものを考えて、それに最も妥当な方法と考えられる程度のひとつ統合をやってほしい、こういうような指導をしているわけでございます。

 

地域における学校の意義を考慮

学校統合を考える場合、それぞれの学校の成り立ちや、学校が地域の中で果たしている役割などを十分考慮することが大切で、必ずしも「標準規模」「適正規模」にこだわる必要がないことが強調されるようになります。

 

小学校、中学校の適正規模について、文部省としての方向はどうなっているか聞かれて、次のように答弁しています。

 

1992年(平成4年)3月11日 衆院・予算委員会第三分科会 遠山敦子・文部省教育助成局長

いろいろな施策の際にその標準(12〜18学級)を考慮しながらやっているわけでございますが、しかしこの規定(学校教育法施行規則)の中でも、「ただし、土地の状況その他により特別の事情のあるときは、この限りでない」というふうに書いてございますし、また学校といいますものはそれぞれの地域のいろいろな伝統あるいは住民の考え方等も反映をしてでき上がっているものでございまして、必ずしも標準でなければならないというわけではないのでございます。

 

小規模校の教育上の利点・地域的意義を尊重

1973年通達は、小規模校には「小規模学校としての教育上の利点も考えられるので、総合的に判断した場合、なお小規模学校として存置し充実するほうが好ましい場合もあることに留意すること」と、小規模校の意義を認め、尊重するよう市町村に求めるものとなりました。

 

「小規模学校としての教育上の利点」というのは、子どもたち1人ひとりにきめ細かな指導ができ、先生と子ども、子どもたち同士、あるいは地域の人たちとの人間的なふれあいや絆が深まり、そういう中で、子どもたちの学習意欲が高まるとともに、人間的成長が育まれるといった、教育機関にもっとも必要な要素を備えているということです。

 

そういった教育上すぐれた小規模校を尊重し、小規模校として残して充実させることも選択肢とすべきことを提起したことは画期的なことです。

 

そういった方向で現在は指導していることが答弁の中で述べられています。

 

また、過去の1956年通達の時代には、機械的・一律的に学級数や通学距離が標準となればよいという考え方をしていたことを反省し、現在では、学校の持つ地域的意義、それぞれの地域の事情やコミュニティーを尊重するよう指導しているといった答弁もされています。

 

2001年(平成13年)3月27日 衆院・文教科学委員会 河村建夫・文部科学副大臣

文部科学省としては、学校統合及び学校規模の適正化に関しましては、特に小規模校の場合でございますが、これにはやっぱり教職員と児童生徒の人間的触れ合いや個別指導の面で小規模校としての教育上の利点も考えられるということで総合的に判断をした場合、なお小規模校として残すことの方が地域にとっても好ましい、こういうことに配慮する必要があろうというふうにしておるわけでございまして、かつて昭和30代以降の通達等々では、機械的に距離であるとか今の学級数とかでもある程度基準にかなえばということであった、それこそ一律的な考え方をしておったのでありますが、地域に非常に事情がございますし、また学校区によってコミュニティーができているという場合もございます。

 

そういうことも十分配慮する必要があろうということで、学校統合を計画する場合には、学校の持つ地域的な意義等を考えながら各教育委員会に指導をいたしておるところでございます。

 

このような観点で、引き続いて学校統合、学校規模の適正化については指導をしてまいりたい、このように考えております。

 

「適正規模」「適正化」を今後どう考えていくのか

「12〜18学級」が果たして今も適正であるのか、今の時代、あるいは今後、「適正規模」というものをどう考えていくのか、を聞かれて文部大臣が次のように答弁しています。

 

2001年(平成13年)2月27日衆院・文部科学委員会 町村信孝・文部科学大臣

昭和31年、できるだけ統合しましょうということ、いろいろな理由が当時としてはまたあったんだろうと思います、大変当時は小規模校が多かったとか、あるいは市町村合併がそのころ進んでいたとかいうようなこともあったのでしょうが、昭和48年に、余り無理な統廃合をしなくてもいいんですよという軌道修正を実はやっておりまして、地域住民の十分な理解と協力を得て、そして行えるように努めてくださいということになっております。

 

ただ、さはさりながら、学校教育法施行規則で、標準を1学年2学級を基本として、小学校の場合は12学級というふうに決めていることも事実ですが、同時にただし書きもあって、「ただし、土地の状況その他により特別の事情のあるときは、この限りでない」というふうに書いてあって、言うならばどっちともとれるようにはなっている

 

最後の判断は、それぞれの地域の市町村教育委員会あるいは都道府県の教育委員会でそこは御判断をいただくということであります。基本的にはそれぞれの地域で適切に御判断をいただく、しかし、余り無理に統廃合を今進めなければならないということではないというふうに私どもは理解をしております。

 

このように文部科学大臣が、学校教育法施行規則で標準を定めてはいるが、ただし書きもあって「どっちとも取れるようになっている」とし「基本的にはそれぞれの地域で適切に判断」することと言っています。

 

つまり、この文部科学大臣の答弁からすれば、「適正規模」というのは標準があってないようなもの、それぞれの地域の判断が「適正規模」になる、そして無理に学校統廃合をする必要はない、というのが、いまの文部科学省の考えということでしょう。