学校統廃合手引のいう「適正規模」「学校規模の適正化」とは

学校統廃合手引のいう「適正規模」・「学校規模の適正化」とは

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「手引」の示す「学校の適正規模・学校規模の適正化」

(2015年1月29日)

「学校の適正規模」「学校規模の適正化」について、「手引」の中でどのように述べられているか見てみましょう。

 

「学校の適正規模」について、まず「教育的な観点」から「一定の規模を確保することが重要」としています。

 

「手引」では、「学校規模の適正化に関する基本的な考え方」について「教育的な観点」として次のように述べています。

 

義務教育段階の学校は、児童生徒の能力を伸ばしつつ、社会的自立の基礎、国家・社会の形成者としての基本的資質を養うことを目的としています。

 

このため、学校では、単に教科等の知識や技能を習得させるだけではなく、児童生徒が集団の中で、多様な考えに触れ、認め合い、協力し合い、切磋琢磨することを通じて思考力や表現力、判断力、問題解決能力などを育み、社会性や規範意識を身につけさせることが重要になります。

 

そうした教育を十全に行うためには、一定の規模の児童生徒集団が確保されていることや、経験年数、専門性、男女比等についてバランスのとれた教職員集団が配置されていることが望ましいものと考えられます。

 

このようなことから、一定の学校規模を確保することが重要となります。

(「手引」2〜3ページ)

 

「手引」の示す望ましい学級数

「手引」では「望ましい学級数の考え方」を示しています。

 

小学校

まず複式学級を解消するためには少なくとも1学年1学級以上(6学級以上)であることが必要。
全学年でクラス替えを可能としたり、学習活動の特質に応じて学級を超えた集団を編成したり同学年に複数、 教員を配置するためには1学年2学級以上(12学級以上)あることが望ましい。

 

「手引」では、最低ラインが6学級で、12学級以上が望ましいとしています。

 

中学校

全学年でクラス替えを可能としたり、学級を超えた集団編成を可能としたり、同学年に複数教員を配置するためには、少なくとも1学年2学級以上(6学級以上)が必要。
免許外指導をなくしたり、全ての授業で教科担任による学習指導を行ったりするためには9学級以上が望ましい。

 

「手引」では、最低ラインが6学級で、9学級以上が望ましいとしています。

 

なお、「手引」では、「学校規模の適正化の検討にあたっては、国の学校規模の標準の単位である学級数のみに着目するのではなく、学校全体の児童生徒数やその将来推計に基づき、具体的にどのような課題が生じているのかや、生じる可能性があるのかを明らかにする必要があります」としています。

 

ですから、ここで示されている学級数は、あくまでも一つの目安ということです。

 

「教育的観点から望ましい学校規模」の基準はない

注意が必要なのは、「教育的観点から望ましい学校規模」について、中教審で結論を得られていないということです。いわば結論を得られないまま「見切り発車」で、今回の「手引」を出しているということです。

 

これも安倍政権の強権的手法の現れでしょう。

 

「手引」は、「学校の適正規模」「学校の適正配置」について、あたかも中教審で結論が得られているかのように次のように述べています。

こうした学校規模の適正化に関する考え方については…既に中央教育審議会が、平成20年7月に「小・中学校の設置・運営の在り方等に関する作業部会」を設置し、平成21年3月に「小・中学校の適正配置に関するこれまでの主な意見等の整理」を取りまとめ、同年7月の初等中等教育分科会に報告・公表しています。

(「手引」4ページ)

 

ここで触れている「小・中学校の設置・運営の在り方等に関する作業部会」で、2008年7月から「教育的観点から望ましい学校規模」の検討が行われましたが、2009年(平成21年)3月で中断しました。

 

「小・中学校の適正配置に関するこれまでの主な意見等の整理」を取りまとめ、2009年(平成21年)7月の初等中等教育分科会に報告・公表した、とされていますが、これは、それまでの作業部会の審議で出された主な意見を文部科学省がまとめただけのもので、作業部会の最終的な報告ではありません。

 

また、その報告を受け、審議した初等中等教育分科会で「学校の適正規模・適正配置」について取りまとめを行ったわけでもありません。

 

ですから、「手引」の内容は、中教審のこれまでの審議を踏まえたものではあったとしても、最終的に結論を得たうえで出されたものではないという点は見ておく必要があるでしょう。

 

「適正配置」は市町村が判断

2009年(平成21年)7月の中教審・初等中等教育分科会での作業部会からの報告は、特に次の点が強調されています。

作業部会の整理の基本的な立場は、公立小・中学校の設置主体というのは市町村でありまして、適正配置の進め方としては、最終的には市町村が判断して実施していかなければならないものですけれども、本作業部会としては、教育的な観点から、適正配置を進める際に拠り所となる考え方、ないしは考慮すべき要素、留意点等を整理して提示するという趣旨でございます。

(2009年7月6日 中教審・初等中等教育分科会)

 

また、補足する形て作業部会のメンバーだった方から次のような発言もあります。

標準規模の12〜18学級というのは、だんだん子どもが増えていった時代の基準です。今は、もっと賢く小さくしていこう、少子化になって、それに緊急対応的に何らかの対応策をみんなで知恵を出していかなければいけないということでしたので、作業部会の場で中心的に議論されたのは、いかに区市町村や国や都道府県が関わって、それぞれの地域特性を生かしながら子どもの教育活動を良くしていくかということだったと思うんです。

(2009年7月6日 中教審・初等中等教育分科会)

 

学校の標準規模とされている12〜18学級について、「現在でもおおむね妥当」とされていますが、実際には作業部会や分科会でいろいろ議論があったことも見ておく必要があります。

 

「標準規模という考え方自体が、今日的にあまり意味がないのではないか」「複数の標準ということも設けてもいいんじゃないか」といった意見も出されています。

 

そのため「作業部会とすれば、それ[いま標準規模の問題をどう考えるか−引用者]をある方向に整理して、ある方向でそうしたことを具体的に考えるというところには至りませんでした」(2009年7月初等中等教育分科会)と報告しています。

 

作業部会からの報告を受けた初等中等教育分科会でも、

  • 12〜18学級を標準とするというのは、急増期に設定されたもので、小規模化とか、少子化等々への対応というのが歴史的な課題にならざるを得ないというときに、従来のような標準規模という考え方でよいのか。
  • 標準規模がややもすると財政的な裏づけ、あるいは財政的な強制力を持つ。そういうような強制力を持ってくると、また地域での問題点がそこに出てくる。
  • 学級の数というよりも、子どもの人数や1クラスの子どもの人数を一緒に考えていかなければならない。
  • 全国の標準とは何かということを考えていること自体がもしかすると正しくない可能性があるのではないか。

といった意見が出されています。

 

地域で「学校規模の適正化」を考える際には、

  • 「教育的観点から望ましい学校規模」について中教審で結論が出ていないこと
  • 標準規模(12〜18学級)についても今日的状況に照らして中教審で疑問が出されていること
  • 学校規模の適正化・適正配置については市町村の判断とされていること

を踏まえることが重要です。

 

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